「欅坂46パン屋事件」の真実。なぜネット炎上したのか、店主に聞いてみると
ネット炎上という現象が一般に定着して久しい。ひとつの発言、ひとつの言動に対してネット上で不特定多数が集中砲火を浴びせる。気づいたら、このような現象が日常の風景となっていた。
山梨県富士川町にある「無添加ベーカリー・デッセム」の店主・廣瀬満雄さん(69歳)も、2020年にネット炎上を経験した一人だ。テレビ番組『欅って、書けない?』(テレビ東京系列、放送終了)の収録で同店を訪れた欅坂46(当時、現・櫻坂46。以下同じ)のメンバー渡辺梨加さんと長沢菜々香さん(2020年3月卒業)が廣瀬さんの指導のもと、パン作りに挑戦した。
放送中、返事をしない2人の態度を改めさせるために、「返事くらいちゃんとしろ!」「それが社会生活の基本だろ」などと廣瀬さんが強い言葉を使ったことが炎上のもととなった。放送終了後にネット上は荒れ、一部の熱狂的なファンからの廣瀬氏個人や店舗に対する誹謗中傷の書き込みもあった。
厳しい上司のもとで働く若いビジネスマンは、つい欅坂46メンバーに共感しがちだが、廣瀬さんがあえて彼女たちを怒った真意とは。また、炎上についてどのように思ったのか。今回、東京都から中央自動車道で約2時間、山梨県にある「ベーカリー・デッセム」で本人に話を聞いた。
私は欅坂46を怒っていない
非常に温厚な人。取材をした私の廣瀬さんの印象だ。恥ずかしながら直接お会いする前は気難しく怒りっぽく、取材中に怒鳴られたりするのではないかと緊張していた。
しかし、廣瀬さんは「一番聞きたいのは欅坂46の件ですよね」と、自ら話を切り出すと、驚く私を尻目に、温和な表情で話しはじめた。
「番組が放送された後に、すぐにプロデューサーから電話がありましたよ。『炎上してしまって、そちらにも苦情の電話がいくかもしれない』と。その後は知り合いからも炎上についてよく心配されました。ただ、私自身、フェイスブックやツイッターへの投稿はしますが、それ以外にネットを見ることはないので、まったく炎上しているという自覚はなかったんです」
廣瀬さんは炎上については周囲の話で知ったそうだ。しかし、その中で不思議に思うことがひとつあったという。
「炎上の中で『欅坂に激怒した』という風に言われていたみたいですね。ただ、激怒というのは私には身に覚えのないことです。私はあの子たちを怒ってはいないんですよ」
「怒る」のでなく「叱る」指導法
「私が欅坂の子たちにしたことは“怒る”ではなく、“叱る”です。確かに私は欅坂の子たちを叱りました。私は叱る時には徹底的に叱ります。ただ、パンを学びにきた人間を怒ったことは欅坂の子たちも含めて一度もありません」
廣瀬さんは「怒る」と「叱る」は根本的に違うという。自分の私情が入ってしまえば「怒る」になる。「叱る」というのは私情を入れずに言動を正すことであり、廣瀬さんが欅坂46をはじめとする厨房に入ったこれまでの数多くの弟子にしたことは、後者であった。
「厨房から離れれば、欅坂46の子たちも普通の女の子で、普通に生活している人です。そのことはよくわかっていますし、厨房の外に出たら私から言うことは何もないです。ただ、厨房の中では私の流儀を守ってもらいたい」