ネーミングライツ【やさしいニュースワード解説】

在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「ネーミングライツ」です。
国立競技場が「MUFGスタジアム」に
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が東京・新宿区の国立競技場のネーミングライツ(命名権)を取得し、名称が2026年1月から「MUFGスタジアム」となることになりました。5年間の契約で、命名権の取得額は1年あたり約20億円になるとみられています。正式名称は国立競技場のままで、略称は「MUFG国立」となります。
ネーミングライツとは、企業や団体が公共施設などの命名権を有償で手に入れ、オリジナルの名前をつけることで、ブランド価値の上昇や知名度向上を図る仕組みです。日本では東京・調布市の東京スタジアムをめぐり、食品メーカーの味の素が2003年に命名権を取得し、「味の素スタジアム」として使用開始したのが日本で初めてのケースです。
その後他の企業でも同様の取り組みが広がり、ロームシアター京都(京都会館)や、バンテリンドームナゴヤ(ナゴヤドーム)、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)などがあります。地方自治体が管理する歩道橋や橋梁、トンネルなどについて通称名のネーミングライツ事業を実施しているケースもあります。
企業の支払う契約金が施設の維持・管理費用に充てられる
企業がネーミングライツに関心を寄せるのは、施設に企業名を冠することで、企業のブランドイメージが向上することや広告効果が大きくなることが主な理由です。長年使用しているうちに多くの人に親しみをもって受け入れられることも多く、たとえば味の素スタジアムは「味スタ」の愛称で定着しています。海外にも例があり、T-モバイル・パーク(シアトルマリナーズの本拠地)、エミレーツ・スタジアム(アーセナルFCの本拠地)などがあります。
命名権の取得にあたって企業が施設を保有する自治体などに「利用料金」にあたる契約金を支払うことで、施設側は維持・管理費用に充てることができます。大阪府の歩道橋のケースでは、賛同する企業が命名権を購入し、自由な塗装などを施して自社のPRに活用する一方、府は管理する道路の維持費用などに充てる仕組みをとっています。
ネーミングライツの課題
一方でネーミングライツに課題がないわけではありません。命名権を売り出す趣旨や目的がはっきりしているかどうかは重要ですし、公共施設の場合、近隣住民の理解が得られるかどうかもカギになります。企業の都合でたびたび名前が変更されるような場合には利用者が混乱し、何の施設かわからなくなってしまうおそれもあります。
また、ネーミングライツを持つ企業が不祥事を起こした場合、施設のイメージが悪化してしまう懸念があるほか、企業が経営不振に陥って当初の契約金を支払えなくなることなども考えられます。そうした場合に備えて、契約を解除するルールや取り決めを事前にしっかり取り交わしておくことも重要になるでしょう。