サナエノミクス【やさしいニュースワード解説】

在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「サナエノミクス」です。
高市首相の経済政策「サナエノミクス」
高市早苗氏が10月21日、104代総理大臣に選出されました。日本の首相は高市氏で66人目となり、内閣制度が始まった1885年以来、初の女性首相となりました。高市氏は10月24日、衆議院と参議院の本会議で、就任後初の所信表明演説を行い、「強い経済」を構築するために戦略的な財政出動を行う方針を示しました。
高市氏の経済政策に対する考え方は、総理大臣就任に先立つ自民党総裁選の時から注目されており、自身の名前を冠して「サナエノミクス」と呼ばれています。
高市氏は、最優先に取り組む課題として物価高対策をあげ、国民の暮らしを守る姿勢を示すとともに、速やかに対策をまとめて補正予算を編成する方針を強調しました。
このほか、ガソリン税の暫定税率廃止や、赤字に苦しむ医療機関や介護施設への支援、所得税の非課税枠であるいわゆる「年収の壁」の引き上げなどに取り組む意向も表明しました。
株式市場では株価が上昇
サナエノミクスでは、経済安全保障の強化や成長分野への投資などを重視する姿勢を示しており、「日本成長戦略会議」を設置して戦略的な投資を行う方針です。さまざまなリスクに対応する「危機管理投資」と位置づけ、具体的にはAI(人工知能)、半導体、造船、量子、バイオなどの分野に総合的な支援を行うとしています。
このため、高市氏が自民党総裁選で選出された直後から株式市場では株価が上昇し、これら関連銘柄の動向も含めて注目される「高市トレード」が続いてきました。途中、公明党の連立政権離脱や、他の野党との連立協議の行方の不透明感から売られる場面もありましたが、日本維新の会との連立政権樹立が確実になった時点で再び上昇し、日経平均株価は5万円の大台超えを達成しました。
証券会社各社は、サナエノミクス効果を織り込んで、当面の株価は上昇基調が続くとして2025年末や26年末の株価予想を引き上げています。
財政再建が停滞してしまう懸念も
サナエノミクスは、安倍元首相の経済政策「アベノミクス」の再来をイメージさせると指摘する市場関係者がいる一方で、積極財政を推進する結果、長年日本の課題になってきた財政再建が停滞してしまうと懸念する声もあります。
またトランプ米大統領が進める関税政策にともない、アメリカを始めとする世界経済の行方がどうなるか不透明な中、高市氏が掲げた政策を推進するためには法律や予算の成立が必要です。サナエノミクスが成果をあげるためには、今後野党の協力も得ながら丁寧に議論を積み重ねていくことが不可欠となるでしょう。

