「建設業界をもっと誇れる仕事に」——現場で叩き上げた社長が語る“ビジネスパーソン”としての未来

建設現場と聞くと、「キツイ・キタナイ・キケン」という、いわゆる“3K”のイメージが根強くあります。しかし、そこには確かな技術と安全に対する高度な意識、そして誇りがあります——。そう語るのは、解体現場から叩き上げで経営者となり、現在は株式会社TOBIHIROの代表取締役社長として業界を盛り上げようと奮闘する小林浩二さんです。自身が何度も遭遇した飛散物による事故の経験から、解体現場を屋根付きの安全ネットで囲い込むシステム「Cage System」(ケージシステム)を開発。そんな小林さんに安全への姿勢、若手時代の学びや信頼関係の築き方について聞きました。
危険が伴う現場では「慣れ」が最大の敵
——危険が伴う現場で、若手が心がけるべき基本姿勢とは何でしょうか?
小林:一番大事なのは、「安全を確かめること」。これは本当に基本中の基本です。実は僕自身、過去に5階から落下して入院したことがありますし、壁材が頭に落ちてきて額を大けがしたこともあります。そういう経験を通して痛感したのは、「慣れ」が最大の敵だということ。
だからこそ、どんなに小さな確認でも絶対に怠らないこと。それが自分の命を守るだけでなく、仲間を守ることにもつながるんです。
——若手が「仕事が怖い」「続けられるか不安」と感じたとき、どう乗り越えるべきでしょうか?
小林:僕は、「恐怖感を持ち続けること」が大事だと思っています。
慣れてくると油断が生まれてしまう。でも、“恐怖感”を忘れなければ、足元の不安定さや危険な状況にも敏感になれます。
「落ちたら終わりだ」と思えば、安全帯をちゃんと付けるし、装備を見直すでしょう。技術や経験ももちろん必要ですが、意識を高く保つためには、この“恐怖感”こそが最大のセーフティネットになると思っています。
「嘘をつかないこと」が信頼される人間へ近づける
——小林さんが若手時代に現場で学んだことや、大切にしていた姿勢は何ですか?
小林:僕はまず、足場材の寸法をすべて覚えることから始めました。足場材は本当に種類が多いんです。でも、どのサイズがどういう場面で使えるのかを把握していると、現場での進行は格段にスムーズになります。
最初のころは、電卓片手に一つひとつ確認していました。でも、寸法や仕様を体で覚えるようにカタログも読み込んで、知識だけでなく現場で自然に動けるようになるまで、とことんやりました。
その地道な積み重ねが、結果的にチーム全体の効率を上げることにつながっていると実感しています。
——仲間や後輩と信頼関係を築くために、現場で必要な行動とは?
小林:僕が一番大切にしているのは、「嘘をつかないこと」です。信頼というのは「信じて頼る」と書く通り、まずは自分が信じられる人間であること。そのためには、誠実に向き合うしかありません。
どんなに忙しくても、どんなに小さなことでも、正直に話す。それが日々の積み重ねになって、信頼される人間へと近づけてくれると思います。
若い世代の不満や違和感こそが、業界を変える原動力になる

——社長として、現場の「安全」を守るために意識している判断基準はありますか?
小林:「安全は守るものじゃなく、つくるもの」——これが僕の考えです。ただ「気をつける」だけでは不十分。そもそも事故が起きないような環境を先に整えることが大切です。
たとえば、屋根の養生を設置しない現場では、「たぶん大丈夫」という状態にすぎません。そうではなく、「絶対に飛ばないような作業場を作る」「落ちるリスクをゼロに近づける」工夫をする。それが、本当の意味での安全だと思っています。
——これから建設業界に入る若手へのメッセージをお願いします。
小林:今の建設業は、50年前に比べれば機械化も進み、環境も少しずつ改善されています。でも、まだまだ「古いまま」の部分が残っています。
僕は、若い世代の不満や違和感こそが、業界を変える原動力になると信じています。実際、かつて「金の無駄」といわれ続けた当社の「Cage System」も、あきらめずに提案を続けた結果、多くの企業から指名をいただけるようになりました。
どんなに厳しい言葉をかけられても、私たちが手掛ける建設現場は、皆さんが生活する場所そのものを支えています。それが何よりの誇りです。だからこそ、これからの若い世代にも、プライドを持って現場に立ってほしいし、一緒に業界を変えていけたらうれしいです。
現場から始まる“ビジネス”のかたち
小林さんの言葉には、現場で培った知恵と覚悟、そして業界の未来への強い思いが込められていました。ただの作業員ではなく、“現場のビジネスパーソン”として安全性を追求し、信頼を築き、環境そのものを変えていく姿勢こそ、今の建設業に求められているといえるでしょう。
株式会社TOBIHIROの取り組みとともに、こうした現場からの変革が、建設業界全体に新たな風を吹き込む日も近いかもしれません。