中華圏で使われる4つの通貨とは?中国・香港・マカオ・台湾のお金事情

中国で使われている通貨といえば毛沢東の肖像画が描かれた人民元(CNY)。しかし、特別行政区と呼ばれる香港・マカオでは、歴史的な経緯から香港ドルやパタカという独自の通貨が流通しています。さらに、沖縄県と海を隔てて南西に位置する台湾の通貨は新台湾ドル。この記事では、中華圏を構成する4つの地域で現在使われている法定通貨とその実情について解説します。
中国本土で使われる「人民元(CNY)」

中国本土(中華人民共和国)で使われている法定通貨は「人民元(CNY)」です。通称「元(ユエン)」とも呼ばれます。
人民元は1948年、中国人民銀行の設立とともに初めて発行されました。実は、人民元が導入される以前の中国には統一された通貨制度がなく、地域ごとに異なる貨幣が乱立していました。
清朝末期には銀貨や銅銭が主に流通し、外国銀貨も広く使われていました。中華民国時代には軍閥や地方銀行が独自に紙幣を発行し、経済は混乱。1935年に国民政府が「法幣」を導入するも、日中戦争や内戦の影響でハイパーインフレが発生しました。
国共内戦中、共産党は独自の「辺区通貨」を使っていましたが、1948年に人民元を発行します。国共内戦に勝利し、中華人民共和国を建国するとともに、人民元を統一通貨として採用しました。
2025年現在、人民元の高額紙幣は百元札で、日本円に換算すると約2,000円です。現代の中国では、Alipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)といったモバイル決済が急速に普及しています。仮に10万円相当の家電を現金で購入するとなると、100元札が50枚必要になりますが、現金で支払うことはほとんどなくなりました。
香港で使われる「香港ドル(HKD)」

香港特別行政区では香港ドル(HKD)が使われています。香港ドルは1845年、当時のイギリス植民地下で初めて紙幣が発行されたことに起源を持ち、1935年に正式に法定通貨と制定されました。その後、1997年に中国に返還された後も「一国二制度」の下で独自の通貨制度が維持されています。
香港の通貨制度の特徴のひとつは、HSBC・中国銀行・スタンダードチャータード銀行の3つの銀行が紙幣を発行している点です。ただし、これらは香港金融管理局(HKMA)の厳格な管理のもとにあります。
また、香港ドルは米ドルにペッグ(固定)された通貨であり、1米ドル=約7.8香港ドルのレートで安定しています。
ちなみに香港では、一部の店舗を除いて人民元が使えないため、観光や出張の決済では、香港ドルに両替しておいた方が無難です。
パタカだけじゃない?3種類の通貨が流通するマカオ

マカオ特別行政区の法定通貨は「パタカ(MOP)」です。紙幣の発行は大西洋銀行と中国銀行の2行、貨幣の発行はマカオ金融管理局が行っており、1935年から正式に導入されました。当初はポルトガルの植民地としての背景を持っていたこともあり、ポルトガル・エスクードと連動していましたが、現在は香港ドルに対して1HKD=約1.03MOPの固定相場となっています。
興味深いのは、マカオでは実際に香港ドルが広く使われているという点です。スーパーやレストラン、カジノでは香港ドルがそのまま受け入れられることが多く、マカオ市民や観光客の間では「1MOP ≒ 1HKD」の感覚で使用されています。
さらに、観光客向けのレストランやフェリーターミナルの売店では人民元も利用できます。筆者は以前マカオを訪れたことがありますが店内では「元:香港ドル:パタカ=1:1:1」という表示が見られました。3種類の通貨が等価として扱われるので、特に人民元で支払うと結果的に割高になってしまうのです。ちなみに、2025年4月16日時点のレートで比較すると以下のようになります。
1元=約19.5円
1香港ドル=約18.4円
1パタカ=約17.9円
香港ドルは香港とマカオで使えますが、パタカが使えるのはマカオだけです。頻繁に訪れる場合を除いて、マカオではなるべく香港ドルに両替しておき、返ってきたお釣りのパタカは現地で使い切るようにすると良いでしょう。
なぜ「新」台湾ドルなのか

現在の台湾では新台湾ドル(TWD)が使用されています。1949年、当時の中華民国政府がインフレ対策として旧台湾ドルに代わって導入したのが始まりです。
台湾では時代とともに通貨が変遷してきました。日本統治時代(1895〜1945年)は日本円が使用され、「台湾銀行券」として発行されていました。戦後は中華民国の統治下となり、1946年に「台湾ドル(旧)」が導入されましたが、激しいインフレにより価値が下落。経済を安定させるべく、1949年に「新台湾ドル(TWD)」が発行されます。
大規模なデノミネーション(通貨単位の切り下げ)が行われ、旧台湾ドルとの交換レートは旧4万元=新1元となりました。
現在は台湾の中央銀行にあたる「中央銀行(中華民国)」が発行・管理しています。
台湾でもLINE Payや街口支付(JKOPay)などモバイル決済も普及しています。ただし、現金の利用も依然として一般的であり、屋台やローカル店では現金しか使えないケースも珍しくありません。外国人観光客が台湾のキャッシュレスサービスを利用するのは難しく、旅行の際は現金が必要になるでしょう。
このように、中華圏に属する4つの地域では、それぞれが異なる法定通貨を持ち、独自の経済システムのもとで運用されています。旅行やビジネスで中華圏を訪れる際には、地域ごとに使える通貨や決済手段を事前に把握しておきましょう。