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航空管制官も人手不足「観光立国ニッポン」の安全を支える管制塔のお仕事とは

2024年(令和6年)の年始は、JAL機と海上保安庁機との衝撃的な航空機衝突事故が羽田空港で起きた。

世間の人々の記憶は薄れつつあるが、空港の管制官の存在がこの事故であらためて注目された。

航空業界と言えば、キャビンアテンダントやパイロットが目に付くが、管制官の存在はあまり聞かない。

当然ながら、航空の安全運航には管制官の存在が極めて重要だ。

しかし、日本の管制官は人員数が右肩下がりで、管制塔でも人手不足が叫ばれているらしい。この管制官とは、どういった人たちなのか。

そこで今回は、出張や旅行で飛行機に乗っても顔を合わせる機会がない管制官たちの仕事や現状について、航空ジャーナリストの北島幸司さんに解説してもらった(以下、北島幸司さん寄稿)。

航空管制官を養成する学校はただ1つ

2024年(令和6年)の年始には、JAL機と海上保安庁機との衝撃的な航空機衝突事故が羽田空港で発生した。この事故の対策はもっと語られるべきだ。

地上監視ツールが脆弱(ぜいじゃく)な空港の管制官に対して、地上交通情報を表示する新たなシステムの導入が必要である。同時に、航空先進国の米国にならって航空管制官の新規増員も急務となる。

そもそも、この航空管制官とは、どういった職務・立場の人たちなのか。

パイロットの養成は大きく取り上げられても、管制官の人数や育成方法さえ知られていない現状が日本にはある。

国内には、航空管制官を養成する唯一の機関として、国土交通省の航空保安大学校が、関西空港対岸のりんくうタウンに設置されている。

自衛隊にも少人数存在するものの、日本の空港の管制官のほぼ全員が、航空保安大学校で教育を受け、訓練を積み、国土交通省の職員としてキャリアをスタートする。別の表現をすると、国家公務員とも言える。

日本の管制官は過去20年で800人以上減少

主な業務は次のとおりである。

・飛行場管制業務
(空港から約9キロ圏内の空域を担当。航空機を目視で管理・制限し離発着の許可や指示出しをする)

・ターミナル・レーダー管制業務
(空港から約100キロ圏内の空域を担当。航空機の離発着をレーダーで管理・制限し誘導する)

・航空路管制業務
(日本の空域を4つに分けた各エリアを担当。空港間を飛行する航空機をレーダーで管理・制限し、指示や許可出しをする)

24時間体制の業務が必要な場面では、早番や遅番、夜勤入りから夜勤明け、休日勤務といったシフトを組み、対応している。

2023年(令和5年)の時点で航空管制官は全国に4,134人存在する。東京、神戸、福岡、札幌、航空交通管理センターの順で人員が多く配置されている。

しかし、航空管制官全体の数は右肩下がりだ。20年前の2004年(平成14年)には4,961人存在したが現在は、800人近く減少している。

その間、航空管制の延べ取扱機数は、コロナ禍を除いて右肩上がりとなった。国土交通労働組合も主張するように、1人当たりの業務負担は当然、著しく増加している。

航空先進国の米国では航空管制官を新規で増員

一方、航空先進国の米国では、航空管制官を新規で増員させている。

2023年(令和5年)に1,500人、2024年(令和6年)に1,800人の採用計画を立て、今年はすでに目標を上回っている。

国土の広さ、空港の数がそもそも異なるので単純に比較はできないが、のべ1.4万人の航空管制官が米国では活躍している。

さらに、管制官を養成する航空交通大学の訓練を強化し、卒業後はすぐに施設訓練を開始させている。

2025年(令和7年)末までに、アップグレードされた管制シミュレーターも全国95の施設に導入する予定だ。

プラスして、滑走路安全対策チーム会議を全国の空港で定期的に開催し、滑走路の照明と路面の改善にも数百万ドル(数億円)を全米の空港で投資している。

飛行場の航空機と車両をタイムリーかつ正確に把握できるシステム

さらに、航空管制官に与えられる安全対策システムも米国では異なっている。

滑走路への進入リスクを排除する取り組みと対策として直近では、米国の政府機関である連邦航空局(FAA)が4月15日、SAI(Surface Awareness Initiative=滑走路面の意識改革)システムを4つの国内空港で導入すると発表した。

オースティン(AUS)、インディアナポリス(IND)、ナッシュビル(BNA)、ダラスのラブ・フィールド(DAL)で2024年(令和6年)7月までに導入し、2025年(令和7年)末までに他の多くの空港にも導入する予定である。

SAI(滑走路面の意識改革)では、位置情報発信器(ADS-B)を搭載した航空機と車両が、滑走路、誘導路、貨物エリア、ランプなどを描いた空港マップ上にアイコンとして表示される。

地上監視のツールを持たない空港の管制官に対して地上交通情報を表示し、発信装置を装着した航空機や車両を一目瞭然(りょうぜん)の状態にするわけだ。

FAA長官マイク・ウィテカー氏は「この費用対効果の高い技術により、あらゆる気象条件下で飛行場全体の航空機と車両をタイムリーかつ正確に管制官が把握できるようになります」と述べた。

USエアウェイズとスカイウェスト航空機の地上衝突事故の教訓

日本では、SAI(Surface Awareness Initiative=滑走路面の意識改革)システムの基幹となる位置情報発信器(ADS-B)の導入も欧米のように必須になっていない。

前述したとおり、航空管制官の人員増も喫緊の課題だ。

どうして、アメリカでは、管制官の人員と管理体制がこれほどまで強化されてきたのか。

その背景には、アメリカのロサンゼルス空港で1991年(平成3年)に発生した、USエアウェイズとスカイウェスト航空機の地上衝突事故が挙げられる。

言い換えると、日本と酷似した事例を契機として米国では、滑走路への進入リスクを排除する取り組みと対策が盛んに進められてきたのだ。

これらの取り組みは、羽田空港で発生した衝突事故に対する大きな教訓となる。航空先進国の米国に習うところは多いのではないだろうか。

例えば、位置情報発信器(ADS-B)は、日本の航空業界では必須になっていないものの、一般ユーザーの間ではすでに身近になっている。スマートフォンのアプリ〈フライトレーダー24〉だ。

同アプリでは、航空機の発信する位置情報発信器(ADS-B)の信号を受信して画面に、世界中の航空機の飛行航路と情報を表示できる。

そのため、航空ファンが写真撮影に空港で使ったり、自身の搭乗する航空機の前便をチェックして遅延情報を旅行者が取得したりしている。

要は、一般ユーザーの間でもすでに身近になっているデータの導入・活用が日本の航空業界では、欧米のように必須になっていない。

JAL機が着陸進入する滑走路に海保機が離陸のために進入しても気付かない管制業務の環境をつくり出してしまった状況を変えていかなければならない。

教訓と対策は目の前にある。管制官に対する皆さんの関心の増大も、彼ら・彼女らの職務状況を改善する後押しになるはずだ。

[文/北島幸司]

[参考]
航空管制官 公式 – 国土交通省
※ 管制取扱機数と定員の推移 – 国土交通省
※ The Air Traffic Controller Workforce Plan
【羽田衝突事故】「管制官足りない」組合が申し入れ…航空機数増加に反し人員減少 元管制官「原因究明が何より大切」 – FNNプライムオンライン

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram @kitajimaavianwing

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