元夫は“平成三羽烏”。ボクシングジム女性会長が明かす「苦難の乗り越え方」
目の当たりにした男社会の現実
とはいえ、隆人さんという大黒柱が抜け、しかも男社会のボクシング界では極めて珍しい女性会長となれば、運営は決して楽ではない。洗礼はすぐに訪れた。しかも、内部からだ。隆人さんがいたころはおとなしかったトレーナーたちが選手の奪い合いのようなことまではじめた。
さらに、「協力したい」とやって来た、隆人さんがかつて古巣で教えていた元練習生は、ジムからプロを引き抜いて自分の仕事で使いはじめた。
「プロや練習生を夜の街に連れて行き、派閥を作ってジム内はごちゃごちゃに……。彼に1度沖縄からジムを見に来てもらったのですが、そのとたんにいなくなりました。おかげでイチから新しく立て直すことができました。男をわかっているつもりでいましたが甘かったです。男でも嫉妬はするし、保身のためなら当たり前に嘘もつく、そう学べただけでもいい経験だったと思うようにしています」
多彩な活躍「ボクシングはわたしの原点」
現在、練習生は100名弱まで回復。借金の返済も終わった。2020年12月には「日本ドミニカ共和国友好親善試合」というイベントに参画し、ジム所属の3選手を日本の裏側、ドミニカ共和国に送り込んだ。コロナ禍で試合が消滅したボクサーたちに新たな戦いの場を提供したこのイベントは、日本とドミニカ共和国の親善をはかるものとしても評価されている。
「このコロナ禍に海を渡るのはいかがなものか、という声も聞かれましたが、国内にこだわり、『試合がなくなりました』とただ手をこまねいていても道は開けません。日本でできないのならどこでやるか。自分の心に嘘をつかず“好き”を追求すれば、いろいろな可能性が見つけられるはずです。
“好き”を見つけて、“今”を全力で生きることが大切なんだと、ボクシングに教えられたような気がするんです。彼が現役だったときも、ジムを開くときも、離婚したときも、病気で抜けたときも、そしてコロナ禍でも、何よりも自分自身のためにも目の前の“今”と必死で向き合いました。
その積み重ねが未来を創っていくことだと思うんです。今はクライオセラピーなどいろいろとやっていますが、そういう意味ではボクシングがわたしの師であり原点ですね」