北朝鮮からポーランドへ送られた子供たちの真実…注目の韓国人監督を取材
韓国映画界を代表する世界的巨匠ホン・サンス監督作『気まぐれな唇』などの女優として知られるチュ・サンミ。近年は監督業にまい進する彼女の監督作品『ポーランドへ行った子どもたち』が、2021年6月18日よりポレポレ東中野で公開されている。
2018年の釜山国際映画祭へ出品された本作は、1950年代に北朝鮮から秘密裏にポーランドへ送られた1500人にものぼる戦争孤児たちの足跡を追うドキュメンタリーだ。韓国公開時には、5万人を動員するヒット作となった。
今回は、映画コラムニストの筆者・加賀谷健が、韓国在住のチュ・サンミ監督にリモートでインタビューを行なった。コロナ禍やロシアによる戦争の時代だからこそ伝えたい、隠された愛の物語がひも解かれる。
「個人的な体験」を通じて変化した製作意図
――2018年に製作された本作は、韓国ではすでに上映され、5万人の観客を動員したヒット作です。今回、コロナによる延期を経て日本でついに公開されますが、上映前の心境から教えてください。
チュ・サンミ監督(以下、チュ監督):韓国公開時は、2018年の平昌(ピョンチャン)オリンピックで南北首脳会談があり、緊張感のある雰囲気でした。日本での公開は、コロナで3年延び、さらにロシアとウクライナが戦争状態の中で公開することになりました。今も戦争孤児がたくさんいます。こうした世界状勢だからこそ、日本の方に身近に感じてもらえる公開時期ではないでしょうか。
――韓国公開から世界が目まぐるしく変わってしまいました。1950年代、ポーランドへ送られた北朝鮮の戦災孤児に関する資料を見つけたことが、本作を製作したきっかけだと聞いています。今振り返ると、その資料をみたときにどんな映像になると想像していましたか?
チュ監督:当初はドキュメンタリーではなく劇映画を作る予定でした。脱北者の若者たちや戦争孤児に対して私は無関心でしたが、産後うつという個人的な体験をし、不安定な母性に直面していたときにこの資料を読みました。
ポーランドの先生たちは、人種を超えて、遠い国の孤児たちに母性と父性を持っていました。ほんとうの親のように面倒をみたんです。彼らが60年以上の時が流れてもその子たちのことを思って涙を流す姿に衝撃を受けました。この人たちの母性や父性は、自分の母性とどう違うんだろう。ポーランドの先生たちの母性なり父性がどこからでてくるのかを探求してみたくなって、ドキュメンタリーを作ろうと思いました。
「2つのジャンルを合わせたシナジー効果」
――劇映画を作ろうと思ったら、その過程でドキュメンタリー映画が、生まれてしまう。だからこそフィクションを超えた力がある作品だと思います。カメラを回しながら、どんなことを考えていましたか?
チュ監督:北朝鮮からポーランドへ渡った戦争孤児たちがいる歴史的事実を韓国の人たちにまずは知らせなければと思いました。はっきりとした目標意識を持ってドキュメンタリーを撮ったんです。
歴史ドキュメンタリーの形式は取らずに、ドラマチックな“シネドキュ(劇映画の手法を取り入れたドキュメンタリー)”の手法を使いました。人物の顔を大写しにするクロースアップは、劇映画の手法ですが、ポーランドの先生たちのインタビューではクロースアップを多用しました。演技ではない感情が出てくる表情を撮っていたんです。
このカメラのアングルによって、劇映画とドキュメンタリーの両方の長所が出てきたんじゃないかと思います。2つのジャンルを合わせたシナジー効果があったと自分では思っています。一方で、ドキュメンタリーには力があることを今回初めて感じました。考えてみれば、私の好きな映画監督は是枝裕和監督など、ドキュメンタリー出身の劇映画の監督なんです。