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「治療法のない難病」に侵された68歳男性。世界で初めての治療法とは

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 これまで、傷や病気で損なった臓器を再生(回復)させるためには、どんな細胞にでも分化できる幹細胞を培養して移植する「幹細胞移植」がメインに使われていました。そこに、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授のノーベル賞受賞により、万能細胞といわれるiPS細胞も登場。

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※画像はイメージです(以下同じ)

 しかし、iPS細胞の再生医療への応用は、心筋や網膜の病気など、ごく一部の治験が始まったばかり。治療・移植への本格的実用化には、まだほど遠い状態です。

 皮膚再生からスタートし、名古屋大学で30年以上にわたって再生医療を研究する医師の上田実氏は「幹細胞を移植するのと、幹細胞の培養液を注入することの効果は同じである」ということを発見しました。この培養液を「培養上清」(ばいようじょうせい)と呼んでいます

 上田氏の著書『改訂版・驚異の再生医療~培養上清が世界を救う~』では、その研究成果について紹介されています。同書によれば、協力病院での治験で、培養上清によってアルツハイマー型認知症、脳梗塞、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、花粉症など、難治の症状が著しく改善したそうです。

 今回は培養上清によって、根治させる治療法のない難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に効果があった例を紹介します(以下、同書より編集の上抜粋)。

自然治癒のプロセスを再現「培養上清治療」

扶桑社

『改訂版・驚異の再生医療~培養上清が世界を救う~』(上田実、扶桑社新書)

 培養上清(ばいようじょうせい)とは何かを簡単にいいますと、幹細胞を培養したときにできる培養液の上澄みのことです。培養上清には、幹細胞から放出された生理活性物質が大量に含まれています。

 培養上清治療では、培養上清を投与することで、生理活性物質が体内に存在する幹細胞を活性化させて患部に誘導して損傷した臓器や組織を治癒させるのです。

 この現象は、いわゆる自然治癒によく見られます。自然治癒とはどのような現象かを、脚の骨の骨折の自然治癒を例にとってお話ししてみましょう。骨折すると、その部分に体中から大量の幹細胞が集まってきて増大し、大量の生理活性物質をつくり出します。それがきっかけとなってさらに多くの幹細胞が集まり、骨折部を修復していくと考えられています。培養上清治療は、この骨折の自然治癒のプロセスを再現しているのです。

治療法のない難病、ALSとは?

医療

 ALSは脊髄(せきずい)に原因不明の激しい炎症が生じることで運動神経が損傷し、脳から筋肉への指令が伝わらなくなる神経難病で、その原因や発症のしくみは解明されておらず、治療法はありません。日本では約1万人、世界では40万人の患者さんがいるといわれています。

 一度かかると症状が軽くなることはなく、しだいに全身の筋肉が侵され、最後には呼吸筋が働かなくなり呼吸不全で死亡します。発症から死亡までの期間は2~5年という残酷な病気です。

 ALSに対しても幹細胞治療が試みられています。2016年にアメリカで行われたALSに対する骨髄由来の幹細胞投与の臨床治験では、26名の患者さんに対して1500万個の自家幹細胞が脊髄腔内に投与され、投与後3か月で、23名の患者さんのALS機能評価尺度の低下が減少し、場合によっては6か月間、症状の進行が鈍化したという結果でした

改訂版・驚異の再生医療

改訂版・驚異の再生医療

iPS細胞、幹細胞移植ではなく、「幹細胞の培養液」こそが再生医療の大本命だった!

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