“究極のホワイト企業”が小さな村にある。世界のトップ経営者が注目する理由
コロナ禍以降、様々な業界でビジネスモデルや働き方が見直される中、イタリアのあるファッションブランドが注目を集めています。ブルネロ・クチネリ。イギリスのウィリアム王子をはじめ、ジェニファー・ロペスやライアン・レイノルズなどのセレブリティも愛用してきた、現代を代表するラグジュアリーブランドのひとつです。
会社は小さな村の古城。なぜ世界から注目される?
今年3月には日本でも表参道に5店舗目の旗艦店がオープンし、富裕層を中心に絶大な人気を博しています。
カシミアセーター1着が12万円以上するなど、どのコレクションもかなりのお値段ですが、売上は右肩上がり。2019年には営業売上6億800万ユーロ(日本円で約770億円)、営業利益8300万ユーロ(日本円で約105億円)に達し、斜陽産業と言われるアパレル業界において、異例とも言える業績をあげているのです。
そして今、ブランドの創業者、ブルネロ・クチネリ氏が自らの経営哲学を語った書籍が注目を集めています。『人間主義的経営』(訳・岩崎春夫 クロスメディア・パブリッシング)。資本主義に踊らされるのではなく、システムを正しく扱うことで、人々の労働に尊厳を取り戻す。そんな崇高な理念が、服作りとビジネスにどう反映されているのか。
さらには、会社の拠点として故郷のソロメオ村の古城を買い取り、劇場やライブラリーの他、職人養成学校まで創設してきた氏を駆り立てるものは何なのか。
ビジネス書でありながら、“効率的に利益をあげる方法”などといったメソッドは一切ない本書。ハイデガー、ニーチェ、カント、孔子、ゲーテなどの古典を読み漁り、自らの道標を見出してきたクチネリ氏の言葉をいくつか紹介していきましょう。
「人間の尊厳を守るために働く」と決意
人間の尊厳を重んじるクチネリ氏。その根っこには、16歳の頃に見た父親の姿があります。コンクリート工場で働いていた父は、雇用主から不当な扱いを受け、目に涙を浮かべることもあったのだそう。そのとき、<自分は絶対に、倫理的にも経済的にも、人間の尊厳を守るために生きて働くと固く決意しました>(p.83)。
洋服を作ることはおろか、どのような道に進むかも決めていない段階の話です。しかし、何をするにしても、クチネリ氏が前提に置いたものは、人間の尊厳を守ることだったわけです。
そして、人間を敬うことは、同時にその人を取り囲む他者や環境を敬うことにもつながります。そのような労働のあり方を構築することが、クチネリ氏の“道徳的義務“となったのです。24歳でスポーツウェア会社のモデルとなった氏の関心は、次第に服作りへと向かいます。女性用の高級なカシミアセーターを作ろうと思い立ったとき、すでに具体的なビジョンが描けていたといいます。