選挙に行かない日本の若者へ。香港の反政府デモを追った31歳・映画監督が語る
――1997年にイギリスから中国に返還されてから、およそ20年が経ちました。香港が今日までどのような変化をしてきたのか、監督は何か肌で感じる部分はありますか。
チャン・ジーウン(以下、チャン):私は主に2000年代に成長してきた世代ですから、香港が返還された当時の感覚はあまりなく、そのことについて深く考えてはいませんでした。高校生の頃も遊ぶことのほうに興味があったのですが、徐々に社会運動が盛り上がる時代になってきました。特に2003年は50万人が参加した非常に大きなデモがあって、何だか騒がしくなってきたなという感じがしました。
大学に入った頃から、過去の歴史や政治に対して興味を持つようになりました。特に1989年に北京で起きた「天安門事件」は、香港にも非常に大きな影響をもたらしました。私は大学で政治を専攻していたのですが、当時の香港はデモが盛んで、2010年には高速鉄道建設に反対する抗議デモがあって、私も参加しました。
――抗議デモが発生するのはどのような背景がありますか?
チャン:こうした運動はどれも中国と関係のあるものです。たとえば高速鉄道の反対運動は、中国の広州~香港に引かれる鉄道ですが、一国二制度という建前がありながら、実際には中国の言いなりになっている背景があります。中国主導の鉄道建設にもかかわらず、香港が費用を負担しなければいけないのはおかしいという主張がありました。
他にも、香港では毎年6月4日に天安門事件の記念集会が行われています。近年、どんどんと中国の影響が大きくなっている中で、自分たちがどうやって民主を守るか、勝ち取るか。それが私たち香港市民の非常に大きなテーマになっています。
監督が懸念する「香港市民の政治観」
――香港市民全体で見たときに、民主化を望む声は、どれくらいの大きさなのでしょうか。
チャン:一般的には6:4と言われています。6割の人が民主化を求めていて、4割の人は中央政府寄りの意見を持っている。その保守的な人たちは抗議活動に参加せず、民主化は特に必要ないと考えている、と言われています。
ただ、現在の香港の選挙制度は、「雨傘運動」の発端になった件のように、少数派であるはずの政府支持者が議会で多数派を占めてしまうシステムになっている。そういう制度に対して、我々は多数派なのに少数派の扱いを受けていることに怒りを覚え、無力感を抱いているわけです。
そして今恐れているのは、民主化を望む6割だった人たちがさらに少なくなってしまうことです。中国からの移住者もどんどん増えていて、その割合は6割から減る可能性あります。