仕事に情熱を持てなくてもいい?「好きを仕事にする」の落とし穴<鈴木祐×ときど対談>
人生100年時代と言われるようになり、将来やキャリアに不安を感じている人は多い。そんな中で、「好きを仕事にしよう」「情熱を持てる仕事に就こう」といった言葉に惹かれる人も多いのではないか。
しかし、年間5000本の論文を読むサイエンスライター・鈴木祐氏は、著書『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』(クロスメディア・パブリッシング)の中で好きを仕事にすることのリスクを指摘している。
一方、今や男子中学生がなりたい職業の上位にあがる「プロeスポーツプレイヤー」として生計を立てる“東大卒プロゲーマー”・ときど氏は「僕にとって、ゲームが好きだという情熱は、全ての基盤であり、パワーの源です」と、著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』(ダイヤモンド社)で語っている。
はたして「好きを仕事にする」は正解なのか? 前後編にわたる両者の対談において、前編では、好きを仕事にしたときど氏の本音に切り込む。
「好きを仕事に」はモチベーションが下がる?
――『科学的な適職』の中で鈴木さんは「好きなことを仕事にしていた人ほど、モチベーションが大きく上下するようになります」と研究に基づいて説明しています。大好きな格闘ゲームを仕事にしているときどさんはいかがですか?
ときど:人間は変わる生き物ですからね。実際にやってみて合う、合わないが出てくることはあると思いますよ。僕だって、ゲームが好きなのはずっと続いていますが、モチベーション自体が大きく上下することはあります。
鈴木:なるほど。そもそも「好きを仕事にした瞬間にモチベーションが下がる」っていうのはありがちなんですが、ときどさんにそれはなかったんですね。
ときど:はい。ただ、僕は結果が出なくなってしまった時に「プレイしたい」というモチベーションが下がりましたね。でもゲームに対する熱が下がったわけではないし、辞めたいとは思わなかった。
鈴木:その時にゲームへの熱が下がらなかったのはすごいですね。
「このまま普通に就職したら…」と考えた
ときど:プロになろうと決めた時に、1回ものすごく悩んだ経験があるからだと思います。公務員になるかプロゲーマーになるかを悩んでいて、いろんな人に相談したんですけど、ほとんどの人はプロゲーマーになることに否定的で。
鈴木:それはそうでしょうね。今のようにeスポーツが盛り上がっていなかったでしょうし。
ときど:その時に考えたんです。このまま普通に就職して、もしかしたら家族を持ったりなんかして……。その一方でもし今後ゲーム業界が発展していって、テレビをつけた時、昔一緒に切磋琢磨してた仲間たちがプロゲーマーとして試合していたら、僕は絶対に耐えられないな、と。
それで「自分はどうしようもなくゲームが好きなんだ」と気づけた。この経験があるからこそ「自分で選んだ道なんだから」と思うことができています。