30歳兼業漫画家が「非エリートサラリーマン」を描く理由
自分をえぐりながら描いた『働かざる者たち』
――僕も最初はギャグ漫画だと思ってましたよ。途中から主人公が自分の働き方に疑問を感じ始めて、どんどん重い内容になっていくんですよね。
橋本:主人公の心境を考えていくと、働かない人を見て何も思わないはずないし、変わらないままでいるのものもおかしいと思ったので、ちょっとずつ影響を受けて変わっていく話になりました。
――それは恐らく橋本先生の実体験とシンクロしていたというか、途中から私小説的な作品になったなと感じたんですが、主人公が自暴自棄になっていくあたり、描いていて辛さってありましたか?
橋本:非常にありました。描いていて憂鬱でしたし、なんか1年半くらい、自分をえぐりながら描いていた感じですね……。グロテスクな感情だとか、そういうところを全部さらけ出してしまったというか。
みんなで何かを成し遂げる漫画はたぶん描けない
――本当にお疲れさまでした……。主人公が副業で漫画を描いていることを、途中で同僚に気づかれるという描写もありますが、橋本先生ももう会社でバレてるんですか?
橋本:やっぱり徐々に気づかれますね……。漫画を描いていることは、会社の偉い人には一応話を通しているんですけど、同僚とかに話すと面倒なので黙っていました。でも、会社中が知っているくらい有名な働かない人をモデルにして描いたから(笑)、そこから推測されてバレちゃったんですよね……。今はみんな、知ってるけど知らないふりをして過ごしてくれているんだと思います。
――会社の人からの反響って、耳に入ってきたりしましたか?
橋本:僕が『働かざる者たち』を描いたとき、会社の人がSNSで痛烈に批判していたのを読みました。「こいつは社歴が浅いから、みんなで何かを成し遂げた成功経験がないので、漫画の描写にリアリティがない。人の揚げ足をとるところだけ一丁前に描いている」みたいな感じで。でも、みんなで何かを成し遂げる漫画なんていっぱいあるし、僕はそういうのはたぶん描けないですね……。