大阪に中国が出現!?道頓堀の裏側“ネオ中華街”でローカルグルメを食べ歩き

大阪・難波の島之内に中国人が集まる「ネオ中華街」がある。コロナ禍以降に、火鍋や牛肉麺など、中国ならどこにでもあるようなローカルの飲食店が軒を連ねるようになったという。2025年現在のネオ中華街を訪れてみると、ローカルぶりは健在で近隣の商業施設には元祖チーズティーの店「HEY TEA」がオープンしていた。この記事では、2025年5月現在の大阪・島之内界隈の様子をお届けする。
目次
ネオ中華街の入口に元祖チーズティーの日本1号店が出店

平日の午後に差しかかる頃、JR難波駅から徒歩で島之内2丁目へ向かう。観光客でごった返す商店街を抜けて道頓堀を渡り、宗右衛門町通を東に向かって歩いた。ちらほら中華料理店の看板を目にするも、どこか観光客向けの雰囲気が漂う。
紀州街道との交差点にさしかかる。横断歩道を渡って直進すると、ネオ中華街のメインストリート・大和町通だ。信号待ちの間に目についたのは、どこか見覚えのある男の子が飲み物を飲んでいるマーク。なんとHEYTEAのアイコンだった。

HEYTEA(喜茶/ヘイティ)は2012年に中国・広東省江門市で創業されたミルクティーブランドだ。チーズティーの先駆けとして中国本土を中心に約4,000店舗を展開している。2025年2月に日本第1号店をオープンしたとのこと。ちなみに、2025年5月時点で日本で営業しているHEYTEAは道頓堀の店舗だけである。
筆者も深圳在住時に何度か飲んだことがある。チーズティーといわれるだけあって従来のミルクティーとは違い、お茶というよりはスイーツに近い飲み物だ。
店舗に入って驚いたのは価格である。ほとんどのメニューが1,000円以上するのだ。確かに、中国でも40元前後の価格帯になるメニューもあるにはあるが、1元20円で換算しても800円前後であり、それよりも高い価格設定となっている。

筆者が見渡す限り、店内に座っているのは、ほとんどが観光客と思われる中国人だった。それもそのはず、HEYTEAが店を構えるのは、インバウンド向けに作られた免税ショッピングセンター「DOTON PLAZA大阪」だからである。

敷地のすぐそばには関西空港直通のリムジンバスが発着する。最後の買い物がひと段落し、バスが来るまでの時間を過ごすにはちょうどよい立地だ。
火鍋店や食料品店が点在する大和町通

思わぬ発見に足を止めてしまったが、気を取り直して本日の目的地・島之内2丁目の大和町通へと向かう。DOTON PLAZA大阪を左手に眺めながら歩いていくと、ちらほらと中国語の看板が見え始める。

横浜や神戸にあるような中華料理の飲食店でにぎわっているストリートをイメージして訪れたら期待を裏切られるかもしれない。島之内のネオ中華街はビルの1階部分に食料品店やレストランが入っているだけなのだ。しかもインバウンド向けのホテルや民泊が立ち並ぶエリアと交錯するので、店と店の間は距離がある。
だが、このあたりに出店している中華料理店が、中国本土で見かける餐厅(レストラン)そのものなのだ。
中国のローカルスーパーのような食料品店

こちらの食料品店では中国食材を取り扱っている。店内に入ると、中国のローカルスーパーさながらの光景であった。日本ではほとんど見かけることのない、アヒルの爪や頭などが置かれている。



乾物や乾麺などは、中国からの輸入品だけでなく、日本在住の中国人向けに日本国内で製造されている食料品もあった。ちなみに、白い服を着た女性のパッケージでおなじみ「椰子汁」(ココナッツミルク)も売られている。デザインは本国そのものだが生産地は茨城県だった。

竹屋町筋との交差点を曲って北上してみると、1軒また1軒と中華料理店が目に入る。三津寺筋で一際目立っていたのは緑色に光る看板だった。
店の外には食材のダンボールが積まれている。どこからともなく中国人が店に入っていき、食材を台車に乗せたり、車に積んだりしている。おそらく近隣の中華料理店の食材はこの生鮮食品スーパーから調達するのだろう。正直、店員なのか近隣の店舗スタッフなのか見分けがつかない。
肉夹馍から羊肉、牛肉面を食べ歩く
中華風バーガー・肉夹馍

島之内を訪れる前にGoogleマップでリサーチしたところ、中華風バーガー・肉夹馍(ròu jiā mó)を食べられる店が複数あることがわかった。肉夹馍は煮込んだ肉をパンに挟んだ料理だ。本場は西安だが、東北地方や新疆ウイグル自治区でも広く見かける。

まずは肉夹馍を食すべく「有家焼餅舗」へと向かった。丸い形が一般的であるが、このお店の肉夹馍は長方形だった。パンが3cmほど開かれ、細かく刻んだ豚肉がたっぷり敷き詰められている。

こちらは豆沙焼餅。一言で表すなら「焼きあんぱん」だ。サクサクのパン生地と濃厚なあんこの相性抜群である。
有家焼餅舗
大阪市中央区島之内2-9-33
肉夹馍:500円(税込)
豆沙焼餅:230円(税込)
日本では珍しい新疆料理のレストラン

次に訪れたのが、疆域小館「熊猫愛吃鶏」だ。「新疆」とは、中国の西方に位置する新疆ウイグル自治区を指す。中国の都市部では、新疆料理のレストランはそこまで珍しい存在ではない。しかし、日本で日本人が普通に暮らしているエリアで目にすることはまずないと言っていいだろう。
店内はテーブル席が2つと2人が座れるカウンターがあるだけのこぢんまりとした店だった。羊肉烤包子(羊肉まんのタンドール焼き)と咸奶茶(主に中国西方で飲まれるミルクティー)を頼む。


タンドールはクロワッサンのようなパン生地の中に羊肉を詰めて焼いたスナックだ。サクッとした食感と濃厚な羊肉の香りがたまらない。

咸奶茶は、主に内モンゴル自治区やチベット、新疆などの少数民族地域で飲まれているミルクティーだ。なんと、ミルクティーには砂糖ではなく塩を入れる。磚茶(だんちゃ/zhuān chá)と呼ばれる板チョコ状に固めた茶葉を砕き、牛乳で煎じるそうだ。ほんのり塩気を感じたものの甘すぎず飲みやすい。
熊猫愛吃・鶏熊猫愛吃鶏
大阪市中央区島之内2-10-7
羊肉烤包子: 880円(税込)
咸奶茶:220円(税込)
安徽省発の牛肉麺の店

最後に立ち寄ったのが、正宗安徽牛肉板面。安徽省発の牛肉麺の店。中国の飲食店同様にQRコードを読み取ってスマートフォンで注文する。注文の際に、面の太さを選ぶことができる。日本ではほとんど目にすることのない宽面(kuān miàn)を選択。太さも幅もうどんの倍以上だ。


正宗安徽牛肉板面
大阪市中央区島之内2-10-9
牛肉板面:880円(税込)
中国の日常を味わえる街
今回、島之内のネオ中華街を回って、店内で日本人に1人も会わなかった。近隣で働いていると思われる中国人がフラっとやって来て、スマホを見ながら食事をとる姿は、中国本土の日常とほとんど変わらない。
しかしなぜ島之内に中国人向けの店が集まっているのだろうか。
島之内を散策する中で、とある店舗の女性に話を聞いてみた。彼女は日本に来てまだ6カ月だという。店自体は3年前から営業していたそうだ。日本にきた理由を聞いてみた。
「コロナ禍で飲食店の規制が厳しく店を開けられなかった。コロナが終わっても不景気で以前のように稼げない。だから日本に来た。この辺の新しい店の多くは同じような理由で逃げて来た人たちだ」
中国人は海外でも取扱店舗であればWechat pay(微信支付)やAlipay(支付宝)で決済ができる。中国からやってくる観光客や島之内周辺で働く中国人の需要は確かにあるかもしれない。
一方、別店舗のスタッフは「なぜかわからない」とそっけなかった。
実は、三津寺筋の生鮮食品店「鑫福」は、Googleマップ上では閉店したことになっているが、実際は場所を移して営業している。ただ更新していないだけなのか、何か理由があるのかは定かではない。
謎は深まるが、中国本土と変わらない「ガチ中華」を食べてみたくなったり、中国で味わったローカル風味が恋しくなったりしたときには、ぜひとも訪れてほしい一角である。