「沖縄も中国」と中国側が本気で言い出しかねない兆候も。国恥地図って知ってる?
中国が、台湾だとか尖閣諸島だとか、東南アジア諸国の面する南シナ海のほぼ全域を「自分たちのもの」と言っている話を以前、取り上げた。
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徐々に拡大するその解釈を受けて「沖縄も中国」とそのうち言い出すのではないかとの意見も見られる。
その点を専門家に聞くと可能性はゼロではないという。その根拠に、最近の中国メディアでは、日本と沖縄を別物と認識しているような報道も見られるらしい。
1930年代には、小学校用の地理の教科書で、沖縄を中国の領土だと主張する「国恥地図」を使用していた歴史もあるそうだ。
「国恥地図」とは何なのか。最近の中国メディアは、沖縄についてどのように取り上げているのか。
清和大学講師、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、オオコシセキュリティコンサルタンツ顧問などを兼務し、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹が解説してくれた(以下、和田大樹の寄稿)。
奪取された領土を示す地図
中国には、日本や欧米列強によって奪取されたとされる領土を示した地図がある。国恥地図だ。
国恥地図には、中国本来の「領土」として、マレー半島やインドシナ半島、東沙(とうさ)諸島の他、台湾や沖縄などが列挙されてる。1930年代には、小学校用の地理の教科書でその地図が実際に使用されたという。
もちろん習政権が、国恥地図のとおりに自分たちの領土を認識しているとは現時点で言えない。
尖閣諸島問題では日中で争っているものの、沖縄については、中国の領土外と習政権は位置付けている。沖縄産の水産物が中国に輸出できなくなっている状況からも明らかであろう(中国は8月、福島第一原発の処理水放出が始まって以降、日本産水産物の輸入を全面的に停止した)。
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しかし、今日の中国は沖縄と、独自の関係を強化したい狙いがあるとは十分に考えられる。
2023年(令和5年)7月3日から5日間の日程で、沖縄県のデニー玉城知事が財界人らと北京を訪れ、習国家主席の側近である李強首相らと会談し、中国と沖縄の経済交流活発化や直行便の早期再開などについて議論を交わした。
一行は、台湾と海を隔てて隣接する福建省にも訪れ、沖縄と福建省の経済・文化交流の発展について意見を交換した。
その沖縄トップの訪問を中国側は熱烈に歓迎した。その歓待には、中国側の狙いもありそうだ。
今日の中国は、台湾統一を達成し、太平洋進出に向けての最前線にしたい狙いがある。米中の軍事的緊張が続く中、九州から、沖縄、台湾、フィリピンに至る「第一列島線」の内側の海域を中国は基地化したい。
その列島線から今度は、伊豆諸島、小笠原群島、グアム、パプアニューギニアへと至る「第二列島線」に展開し、西太平洋で影響力を拡大したい野望がある。
しかし、沖縄本島には米軍が駐留しており、第一列島線の確保も難しいと言える。だからこそ、第一列島線上にある地理的に重要な沖縄と中国は、良好な関係を構築しようとしている。
日本と沖縄を別物と認識する報道
最近、中国メディアでも、日本と沖縄を別物と認識しているような報道があった。
2023年(令和5年)年7月、共産党系機関誌〈人民日報〉傘下の雑誌〈国家人文歴史〉が、沖縄の文化や伝統、米軍基地などを取り上げる特集を組み、沖縄の帰属について「今日の沖縄は日本の統治下にあるが、歴史的に琉球の主権が日本にあると定めた確固たる国際条約は存在しない」とけん制した。
また、同じく中国共産党系機関紙〈環球時報〉は7月から、中国と沖縄の歴史的繋がりについてネット上で動画配信を開始した。
第1回目は、北京にある琉球国墓地の跡地を専門家が巡る内容で、今日の沖縄は、日本政府の管理下にあるものの、中国と琉球の関係史は中日関係史から独立していると指摘した。
こういった相次ぐ指摘は、冒頭の国恥地図を連想させる。
今日の習政権は、経済成長率の鈍化や失業率の増加などが大きな課題となっている。日本との経済関係も可能な限り不安定化させたくない本音があると考えられる。
しかし、習政権は、中国式現代化、社会主義現代化強国の実現、中華民族の偉大な復興などを掲げている。「中国は今後、ますます大国になる、中国人民の復活と発展を今こそ進めよう」という意思を持っている。諸外国に対する姿勢もますます強硬になっている。
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国恥地図のようにすぐさま世界が変わるとは現実的には考えられないが、今日の中国の意気込みは国恥地図の世界を念頭に置いているようにも映る。
国際理解や教養の1つとして若者も、国恥地図の存在を知っていて損はないはずだ。
[文:和田大樹]