「イランとヒズボラ」の名前を中東紛争のニュースで聞いたら要注意。日本もひとごとじゃなくなるサイン
イスラエルの紛争に関するニュースを最近、繰り返し耳にする。ネット上にも、問題を根本から解説する記事が多い。
そもそも、地中海東岸の一部(パレスチナ)は、古代ローマ帝国の時代から、アラブ系のパレスチナ人(パレスチナに住むアラブ系住民)の土地だった。しかし、その前は、ユダヤ人の土地だった歴史もある。
聖書にも、パレスチナは「ユダヤ人の王国」とされている。古代ローマ帝国の征服と共に土地を失い、散り散りになったユダヤ人はパレスチナへの「帰国」を進めてきた。
1948年(昭和23年)にはパレスチナで、世界中のユダヤ人を集めるべくイスラエル国をユダヤ人が建国した。当然、新住民(ユダヤ人)と旧住民(パレスチナ人)の間で対立が起きる。
穏便に事を済ませようとする人も居る。しかし、イスラエル国(ユダヤ人の国)を破壊したいパレスチナ人の武装組織も各地に存在する。
今回の紛争地帯であるガザ地区を実効支配する(ユダヤ人の建国したイスラエル国内には、アラブ系のパレスチナ人が自治するエリアもパッチワークのように存在する)武装組織ハマスもその1つだ。
イスラエル軍と武装勢力のハマスは過去に交戦を繰り返してきた。今回もいわば、その延長だ。イスラエルに向けてハマスがロケット弾を発射し、イスラエル軍が大規模な報復を仕掛けた。
このニュースは一貫して、日本人にとって「対岸の火事」という印象ではないだろうか。しかし、紛争が長引き、イスラエル軍やハマスだけでなく、異なるキーワードがニュースに盛んに登場し始めると、日本の暮らしにもいよいよ影響が出てくるリスクが高まるという。
そこで今回は、清和大学講師にして、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会理事を務め、国際事情にも詳しい和田大樹が、中東紛争のニュースの見方を解説してくれた(以下、和田大樹の寄稿)。
一国の軍隊VS武装勢力
世界の関心が、ウクライナ戦争や台湾情勢に寄せられる中、10月以降は中東に向かった。
イスラエル国内の南部沿岸には、アラブ系のパレスチナ人(アラブ人の呼称の1つ)の自治が認められているガザ地区が存在する。
そのガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが10月7日、数千発のロケット弾をイスラエル領内へ発射して以降、イスラエル軍との衝突が激化した。
ハマスは何をしたのか。ガザ地区との境界に近い、イスラエル側の土地で開催されていた野外コンサート会場を襲撃した。260人以上が犠牲となったとされる。
その後も、陸・海・空からの攻勢をハマスは仕掛け、これまでの犠牲者数は5,000人を超えている。
また、外国人を含む200人以上を人質としてガザ地区に連行した。ハマス側は、イスラエルの対応次第で人質を殺害すると警告し、一部の人質はすでに殺されたとも言われている。
イスラエル側は、自分たちを認めず、強硬的な手段に出るハマス壊滅の姿勢を貫き、ガザ地区への空爆を強化している。しかし、犠牲になっている人の大半は、罪のない市民だ。
イスラム教徒が多数を占めるアラブ系のパレスチナ人に対し同情的なアラブ諸国(アラビア語を話す人々の暮らす国)やイスラム教国からは、反イスラエル(ユダヤ人が圧倒的多数の国)の声が広がっている。
一国の軍隊であるイスラエル軍と、武装勢力にすぎないハマスでは、軍事力の差は歴然としている。イスラエル側のさらなる厳しい姿勢は、反イスラエル感情を各国から高めるだろう。
「われわれも傍観者ではいられなくなる」
この紛争は、中東で起きている。日本経済への影響は、何が考えられるのだろうか。
最も心配の声が挙がる問題は原油の価格だろう。日本は、サウジアラビアやUAE、カタールなど中東諸国に輸入原油を依存している。その依存度は9割を超える。
大規模な戦争が中東で発生すると、原油の価格はその影響で高騰する。その価格高騰リスクが日本経済には常に付きまとう。
ただ現状、日本経済に対し、大きな影響が出る事態にはなっていない。今日の戦闘範囲は、イスラエルの一角にあるガザ地区とその周辺に限られている。
他の中東諸国にも戦闘範囲は拡大していない。サウジアラビアなど他のアラブ諸国(アラビア語を話す人々の暮らす国)が、今日の紛争に軍事的に関与する可能性はないに等しい。
いかに争いを停止し、事態のさらなる悪化を防ぐかが周辺国の関心事である。その状況が続くと仮定すれば、日本の原油事情には大きな影響を与えない。
しかし、懸念もある。そのポイントになる国がイランだ。
武装勢力ハマスを支援するイランとイスラエルは長年犬猿の仲である。その理由をきちんと解説しようと思えば1本の記事になってしまうので簡単に言う。
1979年(昭和54年)に誕生したイラン・イスラム共和国のイスラム主義政府は、イスラエルの存在そのものを否定しているからだ。
本来、イスラムの地であった場所にイスラエルが建国された経緯をイランは認めていない。イスラエルの土地を奪還するために武装勢力のハマスをサポートしている。
今日の紛争でも「イスラエルが、ガザ地区への攻撃をさらに強化すれば、われわれも傍観者ではいられなくなる」とイランは警告している。
要は、このイランの後ろ盾があるから、軍事組織のハマスは大胆に行動できるのだ。
もちろん、イスラエルとイランが今後、直接的に軍事衝突するリスクは低い。イスラエルは核を保有している。
しかし両国が仮にぶつかるとなれば、この紛争は中東全体を覆う。日本経済への大きな影響は避けられない。
親イランの武装勢力ヒズボラにも注目
さらに現実的なリスクが他にもある。中東各地に点在する親イランのシーア派武装勢力である。シーア派とは、イスラム教の宗派の1つだ。
実は、イスラエルの北と国境を接するレバノン南部にはイランが支援する武装勢力ヒズボラが活動している。
ヒズボラは、イスラエル北部に向けてロケット弾を打ち込んでいる。すでに、日本の外務省も「イスラエル北部に行くな」と安全レベルを最も深刻なレベル4に引き上げている。
ヒズボラの軍事力は、ハマスとは比較にならないほど強い。仮に、イスラエルとヒズボラが軍事的に衝突すれば、その影響は今より深刻になる。
また、周辺国のシリアやイラク、バーレーンやイエメンなどにも親イランの武装勢力が活動している。今回の件を受けて、イスラエルへの苛立ちを強めている。
最近では、イエメンのシーア派(イスラム教の宗派の1つ)武装勢力がイスラエルに向けてロケット弾を発射した。しかし米軍が、紅海上で、そのロケット弾を撃墜したという。
こうした中東各地の親イラン武装勢力が今後、イスラエルへの攻勢を強化するようになると必然的にイランは、それらの勢力に接近、より関与を深めるだろう。
今日の紛争が拡大すれば、輸入原油の9割を中東に依存する日本には大きな懸念材料となる。原油の価格が高騰すれば、ガソリン代、灯油代、プラスチック素材など、さまざまな価格に影響が出る。
今後の行方が懸念される中で、日々のニュースに接する若者は「イラン」や「ヒズボラ」などの武装勢力の名前に注目したい。世界の見方が深まるはずだ。
[文/和田大樹]
[参考]
※ パレスチナ(Palestine)基礎データ – 外務省
※ イスラエル基礎データ – 外務省
※ イラン基礎データ – 外務省