中国共産党は外交で失策しても倒れない?国際政治を知るための「入門書」
ロシアのウクライナ侵攻に端を発する混乱の波はヨーロッパのみに留まらない。英米保安機関トップが6日、ロンドンでそろって中国のスパイ行為について警告を行うなど、対中国の緊張感が非常に高まっている。
日本国内でもクアッド(日米豪印戦略対話)の会合が5月末に開かれたことは記憶に新しい。対岸の火事とは言えない状況になった今、私達も今一度中国の外交政策について知る必要があるのではないだろうか。
日本人初となる北京大学からの経営学博士号を取得した中川コージ氏の著書『現代中国がわかる最強の45冊 知識ゼロから学ぶための必読書ガイダンス』では、基本的な知見がない読者にも向けた本を中心に、中国の国際政治を学び始めるうえで最適な4冊を紹介している。
「まったくその界隈に知見のない大学1年生に対して提示するブックガイド」をコンセプトにした同書から一部を抜粋する。
【1】チャイナの「外交と国際政治」がわかる書
チャイナによる外交を知ってみましょう。1つはチャイナにとっての外交という視点、もうひとつはチャイナを重要なプレーヤーとしてとらえた1つ上位階層の国際政治という視点になります。チャイナの「外交と国際政治」を理解するためのものとして、「標準的な国際政治」がテーマの本を3冊、「経済人(※1)の立場でとらえる、外部環境としての国際政治」として1冊、合計4冊を選んでみました。
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※1「経済人」=定義はさまざまにありますが、ここでの経済人というのは、自分がビジネスパーソンとして経済活動に従事していて、政治や政策立案そのものは自身の仕事ではないケースとして表現しています。国際政治が国際的な営利事業活動(多国籍企業)に影響を与えることは自然です。
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1冊目は、益尾知佐子『中国の行動原理』です。内政力学をエネルギー源としたチャイナの対外政治全般にわたって書かれています。国際関係論では説明しにくいチャイナの対外行動発生メカニズムを描き出しています。巻末には「中国の行動原理関連年表」が、1848年2月の「マルクスとエンゲルス、『共産党宣言』出版」に始まり、2019年の6月「香港で抗議デモ発生、長期化へ」、同年10月「北京で建国70周年パレード」まで載せられているのも重宝します。
統治の安定性が党の最重要課題
また、ホームページ『Web中公新書』の「著者に聞く」のコーナーで、益尾先生が『中国の行動原理』の執筆背景などを語っているので、本書に先立って読めば、内容により入っていきやすいでしょう。益尾先生の本の副題に「国内潮流が決める国際関係」とあるように、チャイナは内政重視で、外交は重視していません。というと、意外に思うかもしれませんが、それが実態(※2)です。
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※2「実態」=中華人民共和国建国後も内政混乱が続き、国連での代表権が認められたのが1971年ですから、そもそも中共にとって全面的にオフィシャルな外交の歴史は半世紀ほどしかやっていません。また経済発展が急速すぎて40年前と現在の国力がまったく異なるので、過去と現在の「内政と外交の間にある関数」が同じと考えるほうが無理があります。
今はバラバラな14億人統治の安定性のほうに腐心するエネルギーコストのほうが外交よりもはるかに高いわけですが、数十年後には内政偏重ではない時代もくるかもしれません。本文中の「実態」とは、少なくともこれまでの半世紀ほどの実態という意味です。
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チャイナに限らず、ほかのどの国でも「内政ありきの外交」が基本です。そのなかで、特にチャイナの場合、外交の8割、9割は内政のスケジュールや方向性で決定されます。これはチャイナの外交がほかの大国と比べても、同盟関係や政治価値観などではなく、はるかに内政事情に引きずられている事情を示しています。
なぜそうなるのか。チャイナはややもすると即座に国内統治が不安定になりがちなところへ、中国共産党が統治の安定性を、党としての最上課題に掲げているからです。チャイナにとっては、何よりも内政が大事なのです。チャイナの国際政治を見るためには、「内政ありきの外交」という視点が不可欠です。