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水道屋がタピオカ、アパレル事業に進出。“令和のヒットメーカー”が明かす、独自の審美眼

ビジネス

 人々のライフスタイルに欠かせない衣・食・住。多くのビジネスチャンスが転がっている競争激しい領域ゆえに、苦戦する企業も少なくない。そんななか、水道工事業や台湾カフェ「春水堂」、ボーダレスウェアブランド「WWS/ダブリューダブリューエス(以下 WWS)」など、衣食住全ての分野でビジネスの軌道に乗せているのがオアシスライフスタイルグループだ。

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株式会社オアシスライフスタイルグループ 代表取締役社長の関谷有三氏

 同社の代表取締役社長を務める関谷有三氏に、事業をヒットさせるための秘訣や今後の展望について話を聞いた。

倒産危機の家業を立て直す

 大学時代は何かやりたいことがあるわけでもなく、ごく普通の大学生活を送っていたという関谷氏。転機は、父親から「有三、会社を手伝ってほしい」と言われたことだった。

「実家が栃木の宇都宮で水道工事の会社を営んでいたんです。父親から連絡があった時はもう倒産寸前で(笑)。大学卒業後は特にやりたい仕事もなかったため、仕方なく父親の会社を手伝うことにしました」

 家業の立て直しに奔走し、見事、経営危機を脱することに成功。その後、独立する形で2006年に株式会社オアシスソリューションを立ち上げる。

創業期はハローワークで社員採用

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 ここから起業家人生がスタートしたわけだが、創業期は苦労が絶えなかったそうだ。

「最初はマンションの1室から始めました。とにかく売上を立てなくてはならないので、飛び込み営業やテレアポなど新規開拓に勤しみましたが、無名の会社ゆえ全く相手にされなかった。資金もないので社員もハローワークで募集したんですよ(笑)。まさに“金なしコネなし”の状況でしたね」

 ハローワークで採用した同年代の女性社員とともに営業活動を頑張ったものの、なかなか成果が出ない。途方に暮れていたある日、仕事帰りに見た「ある映画」が、営業の仕方を変えるアイディアにつながる。

営業活動の際に“ビジネスネーム”を使ってアポ取りを行うようにしたんです。ちょっとした工夫でしたが、少しずつアポが取れ始めるようになり、中堅どころのマンション管理会社が初めての取引先になってくれました。初めは叱責されましたが、逆に度胸を買われて担当者の方に気に入ってもらえたんですよ(笑)」

 オアシスソリューションの名は次第に多くのマンション管理会社へと知れ渡るようになり、今ではマンション向けの水道メンテナンス事業で業界シェアNo.1と言われるまでに成長した。

東日本大震災で学んだ2つのこと

 現在は水道工事業以外にも、タピオカ店の運営やアパレルなど多角化経営を行っている。異業種に参入する理由については「2011年の東日本大震災が契機となった」と説く。

「3.11を経験したとき、改めて気づかされたことが2つあるんです。まずは『会社は1つの事業だけでは成り立たない』ということ。大地震や今回のコロナのようなパンデミックは予測不可能でいきなりやってくる。柱になる事業を1つではなく、3つ作らないと会社存続が危ぶまれると感じたんです。

 そして2つ目は『人生一度しかない』ということ。何が起こるかわからない未来に、自分が“心のそこからやりたいもの”に情熱を注いでやり抜くことで、後悔しない人生を送ろうと決意しました」

視察に訪れた台湾でタピオカに惚れ込む

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台湾カフェ春水堂(チュンスイタン)

 水道工事業の海外展開を目論み、台湾に視察へ行った際、たまたま空港で出会ったのが「春水堂(チュンスイタン)」のタピオカドリンクだった。何気なく飲んだタピオカドリンクの味に感銘を受け調べてみると、春水堂が台湾では国民的人気のカフェであることを知る。

 さらに、別の機会に台中にある春水堂の本店に訪れるや、店内の空間やインテリア、サービスなど全てに圧倒されたという。

「春水堂の本店が醸し出す独特の雰囲気は、何というか“稲妻に打たれた”鮮烈な感じを受けましたね。と同時に、『この空間を日本でも広めたい』と思うようになった。それからというもの、台湾の春水堂の本店に足繁く通い、何とかオーナーと会って日本での展開を打診しようと試みたんです

 しかし何度も何度も通いつめたが、オーナーとはなかなか巡り会えず、「次回行って、前に進まなければ諦める」。そう踏ん切りをつけ、唯一仲良くなっていた同年代の店員に「この提案書をオーナーへ渡してほしい」と伝えたところ、1週間後、オーナーから連絡が入って交渉の段に立つことができたという。

魅力を伝え続けた3年。ようやく黒字化に

「後日談ですが、仲良くなった店員の方は、実はオーナーの息子さんだったんです。すごく運命を感じましたね」

 度重なる交渉の末、春水堂の日本進出が決まり、2013年7月に代官山へ1号店をオープン。タピオカブームの先駆者として、行列ができるほどの人気を博した。とはいえ、当時は欧米スタイルのカフェが一般的で、アジアンカフェは日本人に流行らないとされていた。

 特に日本人はお茶にお金を払う文化がなく、春水堂のようなお茶専門の台湾カフェはまだまだ受け入れられにくい状況だった。

全く土壌がない中で運営してきたので利益が出るまでは3年かかりました。仕入れもできないなか、何かサイドメニューを出せないかと、おにぎりを握って売ってみたり、ロールーケーキを出してみたり……。それでも結果はうまくいかず、春水堂の魅力を伝え続けて、ファンを増やし、全国展開できるようにまで成長させることができました」

社員向けユニフォームから事業化へ

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約2年かけて開発した独自素材「ultimex(アルティメックス)」

 3つ目の事業の柱となるWWSも、意外なことがきっかけで事業化を決断したという。

「もともとは水道工事業の社員向けユニフォームとして『スーツに見える作業着(ワークウェアスーツ)』を開発したんですよ。水道工事って若者にあまり人気のない職種で、若手の採用に苦戦していたために『おしゃれでかっこよく、かつ動きやすい作業着』を作れば若者に興味を持ってもらえるのではと思って、プロジェクトを立ち上げました」

 しかし、さまざまなメーカーの生地を取り寄せても満足のいく生地にはならず、結局、自社で約2年かけて、ストレッチ性があり、丸洗いも可能なオリジナル素材「ultimex(アルティメックス)」を作り出した。

 速乾・撥水性といった高機能でありながら、スーツのようなフォーマル要素を兼ね備える「今までになかった商品」は大ヒット。ビジネスユース以外にも最近では私服としてカジュアルシーンでの着用機会も広がっているという

「見た目もスタイリッシュで、若手が採用できるようになりました。また、言葉遣いや礼儀なども自然とよくなり、取引先にも好印象を持たれることが増えた。ある時、『うちのユニフォームを作ってくれないか』と依頼があり、これだ!と決断しました。漠然と衣・食・住の“衣”の部分で3つ目の事業を興したいと考えていたんです」

結末は必ず「ハッピーエンド」と決める

 1つ目は水道工事業。2つ目は飲食事業。そして3つ目はアパレル事業を展開してきたオアシスライフスタイルグループ。「常になんでも事業になり得る」と思い、衣・食・住の中から常に情報感度高くアンテナを張っているという。

「心からやりたいと湧き出るくらいのものが見つかれば、とことんやりこむ性格なんですよ。『なんで、タピオカ屋やったの?』とよく聞かれるんですが、単純に好きで惚れ込んだから。事業の親和性とかも深くは考えず一度決めたら最後までやりきることを意識しています。

 参入領域での成功事例も調べて『自分でもできるかもしれない』と思えれば、やってしまう。最初の水道事業は自分の父親がやっていたわけで、それくらい自分でもできると思いましたね(笑)」

 さまざまな事業をヒットさせる関谷氏は“令和のヒットメーカー”と称される。独自の審美眼は「先を見通す力と結末は必ずハッピーエンドと決める」ところにあるという。

「大事なのは何か始めた時に必ずハッピーエンドを思い描くこと。そうしておけば、何が起ころうとどんなに失敗してもやり続けることができる。いろいろ起きることも“エピソード”のひとつに過ぎないと思っています。逆にエピソードが多いほど後に語り草として残るでしょうし、私の場合は書籍を出すことにも繋がった(笑)。この先どうなるかわからないことをいかに楽しめるかだと思いますね」

“ボーダレスウェア”という新市場の開拓

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リブランディングに合わせて発売した新商品「WWS Bizモデル」(左)。キービジュアルには100mハードル日本記録保持者の寺田 明日香さんを起用

 2021年2月16日には「ワークウェアスーツ」というブランド名から「WWS/ダブリューダブリューエス」へと変更し、“ボーダレスウェア”と銘打ち、リブランディングを図った。WWSはどのようなポジションを確立して生き抜いていくのだろうか。

「WWSはスローガンに『Be Borderless』を掲げています。コロナ禍で仕事とプライベートの垣根がなくなったことで、ビジネスにも、カジュアルにも着こなせる『シーンレス・シーズンレス・ファッション』が注目を集めるようになりました。

 それには『普遍的であり、かつシンプルで洗練されている』ことが求められる。 “ボーダレスウェア”という新たなカテゴリーを創り、日本発のブランドとして世界で勝負できるよう事業展開していくつもりです」

アパレル業界の「アップル」を目指す

 アップルの創業者スティーブ・ジョブズはタートルネックにジーンズ、スニーカーと毎日同じ服を着ていた。その影響を受けた関谷氏も、「服に振り回されない時代」がやがて訪れるという

「私は昔、時計がすごく好きでコレクションしていました。毎日服に合わせて時計を選ぶのが楽しかったんですが、Apple Watchを買ってからはあれこれ時計を選ばず、そして流行りに振り回されないようになった。

 アップル製品の魅力は普遍であり、今も多くの人々に愛されている。これこそ、WWSの根底にあるブランド体験であり、将来は“アパレル業界のアップル”を目指したいと考えています

 2023年度までには国内の主要都市を中心に直営の常設店を15店舗、そしてコロナの状況を鑑みながらロンドンを皮切りにグローバルへ進出する準備を進めているという。WWSの今後の展開に期待したい。

<取材・文・撮影/古田島大介>

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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